吸血鬼ゴケミドロ

 京都に住んでいた時分に交通手段として使っていたのは、たいてい、市バス。それも岩倉行の5号系統と、巡回する206号系統。京都は観光都市で、いたるところに名所旧跡が存在するため、バスの路線も多様だったが、私が著しく興味を覚えたのは、後にも先にも深泥池行きただ一本。なお「みどろがいけ」と読む。おどろおどろしい字面と響きに得体のしれない胸騒ぎを覚えて心はやったが、何年も住んでいたのに結局乗らずじまい。せっかくだから一度くらい乗っておけば良かったと、今更ながら後悔している。もう京都に住むこともないだろうし、住んだとしても市街地ではなく貴船や鞍馬辺りを選ぶと思うから、深泥池とか行くの面倒なんて言って乗らなさそう。

 吸血鬼ゴケミドロとというタイトルの映画があると初めて知った時、真っ先に思い出したのが、この深泥池のことだった。wikipediaの記載によると、実際に深泥池をイメージしたネーミングだそうな。なお、同時上映は江戸川乱歩原作の黒蜥蜴。美輪明宏が丸山明宏だったころの作品。こちらは何度か観たことがあるが、細かい部分を忘れかけているため、また後日。

 以下、吸血鬼ゴケミドロのネタバレ。

 私の中では「楽しい夕食」のイメージしかない金子信雄も出演していて、それこそ真っ先に本人がゴケミドロの楽しい夕食にされてしまうSFホラー。宇宙生物ゴケミドロに寄生されるテロリストの寺岡を演じるのは、時代劇顔のシャンソン歌手、高英男。代表曲「雪のふる町を」は、中学の音楽の教科書に載っていたっけ。主演は吉田輝雄で、ヒロインと悲鳴の担当は佐藤友美。吉田輝雄演じる杉坂が副機長を務める航空機が、謎の発光体とニアミスをし不時着をした後、詰め寄る乗客に「ここがどこかはまったくわかりません」なんて言っているが、実際には歩いて舗装された道路に出られる程度の半端な山中。この時点で香ばしい。

 テロリスト寺岡は簡単に複数の銃を機内に持ち込むし、山本紀彦演じる松宮は時限爆弾を持ち歩いているし、救急用品はほとんどないし、セキュリティががばがばで、同じ国の人間にすら翻弄されているわけだから、高度な科学を持った宇宙生物に餌としてもてあそばれるのも無理のない話。ただ、古典的なアダムスキー型の宇宙船を操り飛来できるくらい、科学技術が人類よりはるかに高度に進んでいるとはいえ、ゴケミドロが人類を殺す手段は、スタトレ的なフェイザーや光子魚雷などではなく、取っ組み合ってから噛みついて血を吸うという、言うなれば「血ぃ吸うたろか」の間寛平スタイル。何でも血液が好物らしい。当人は宇宙人でもなく吸血鬼でもなく「我々は宇宙生物ゴケミドロ」と自称し、地球を滅亡させるためにやってきたのだなどと穏やかならぬ宣言をするが、観ていて感じたのは効率性が悪そうということ。

だって人類全員と取っ組みあって噛みついて血を吸うことで滅亡させようとしたら、相当の時間がかかるはず。「今お腹いっぱいだからちょっと休憩」とかいって、なかなか進まなさそうと思いきや、寺岡に寄生して杉坂達を襲ったゴケミドロはあくまでも先遣隊らしく、後から徒党を組んで地球を襲ってくるというエンディング。結局地球は滅亡して「終」なんだってさ。でも一番の理由はゴケミドロの無差別攻撃ではなく人類が争いあって互いに協力しなかったから。よしんば協力したからって、宇宙船で飛んでくる相手に対して出来ることなんて、たかがしれているはずだが、どういうこと。

 ゴケミドロの正体が顔のないはぐれメタルみたいだったり、随所に反戦メッセージが挿入されていたり、なかなか興味深い映画だった。完成度はともかく。「ごけみどろはきうけつきではなかたです」くらいしか感想の書きようがないので寝る。